Thursday, August 12, 2010

【書評】乙女の密告

第143回芥川賞受賞作品ということで手にとった。そのような肩書きがなければ、タイトルからは決して読むことがなかった一冊で、このような出会いも大切にしたい。ロケーションは、京都の女子大の外国語学部ドイツ語学科。乙女、京都、ドイツ語…妄想をかきたてるキーワードに「密告」というちぐはぐなコロケーション。それは、小説のはじめに強烈な個性のドイツ人教授が出現し、それに負けずと劣らない個性の女子大生たちが紹介されていくことで明らかになる。耳を澄ますと聞こえてくるBGMは、交響曲第7番 イ長調 Op.92 第1楽章だ。そう、芸術と喜劇のハーモニーとも形容できる「のだめカンタービレ」を彷彿とさせる小編である。本作品においての芸術は、日本人にも馴染み深い「アンネの日記」である。オランダ語では、「ヘト・アハテルハイス」("Het Achterhuis"「隠れ家」)という呪文のようなタイトルだそうで、まさしく1944年4月9日分の日記の暗唱大会を巡り、乙女と称する女子大生のアイデンティティの発見と14歳のユダヤ人少女のアイデンティティの放棄がメビウスの輪のようにリンクしていく魔術的作品。文中繰り返される「乙女」の語が「メッチェン」とコンサート中響くくしゃみのようで耳障り。それも意図的な細工だとすれば、そんな細工の宝探しを小一時間楽しむことができる。